日本人の中に歴史の嘘を見抜き、〈マトリックスとしての反日〉に対決し、打ち破り、そこから決別しようという人が増えてきたのは、日本の〈いまここ〉が、時代が大きく変わる分水嶺に差し掛かっているからである。東日本大震災を契機に、自虐史観の呪縛から解放された人も少なくない。戦後のシステム、戦後日本を作り上げてきた体制の〈嘘〉を見抜いた人が増えている。
政権交代の挙句の果てが、統治能力に著しく欠如した民主党政権の醜態だったのだから当然である。その醜い姿を見れば、平成二十一年(二〇〇九)の総選挙でメディアに騙された人でも気づいているはずだ。
東日本大震災は大地を引き裂き、海底の地殻変動と津波で日本人の日常を切り刻んだだけでなく、時代に大きな裂け目を作ったのだ。その裂け目から虚妄の戦後体制の姿が見えている。そうでなければ、石原慎太郎都知事の尖閣諸島を東京都が地権者から購入するというアイデアが、あれだけの支持を集めるわけはなかった。
先に文庫化された『「反日」の構造』の文庫版まえがきで〈マトリックスとしての反日〉という概念をご説明したが、本書の解説にもそれは必要不可欠なものになっている。そして、ここで明確にしたいのは、〈マトリックスとしての反日〉の本当の正体は、捏造史観で永久に日本に謝罪と賠償を要求する韓国人でもなければ、覇権主義で日本侵略を虎視眈々と狙う支那人でもなく、また、日本の属国化を永久化したい米国でもないということである。〈マトリックス〉、つまり仮想現実としての〈反日の正体〉とは、それらの国や民族を唆[@ルビ・そそのか]して、反日の材料を供給している日本人に他ならないということである。
本書『反日の正体』は平成十八年(二〇〇六)二月二十八日にPHP研究所から発売された『反日の超克』の文庫版である。先に文庫化された『反日の構造』の続編であるが、再読すると、前書同様、この六年間で何一つ重要な問題が解決されず、大きな危機が今なお一向に回避されていないことに驚かざるを得ない。と同時に、言論の無力、〈マトリックス〉の強固な壁の存在を再確認するしかなかった。
六年前に上梓された本書の内容が全く古くなっていないことに、本書の価値を見出す読者もいるかも知れない。しかし、私は自分が書いたテーマが時事的な問題を超越する普遍性を持っているということより、むしろ言論の場である論壇、あるいはジャーナリズムの影響が矮小化したことと、言論そのもの無力さに虚しくなる。それだけ、日本人の言論が多くの日本人に届かないような情報封殺システムに私たちが絶えず脅かされていることにも気づくのだ。なお、文庫化にあたって、時制の統一などを加筆、訂正している。
(文庫版まえがきより)
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